Die with Zero Rule 8 魔法の計算式

ビル・パーキンス(Bill Perkins)著、「ダイ・ウィズ・ゼロ(Die with Zero)」(児島 修 訳、ダイヤモンド社)は、人生のうちに資産を使い切るという哲学を説いた一冊。「死ぬときに残高ゼロ」、つまり、老後のために貯め込むのではなく、最も体力・好奇心・時間がある時期から経験・思い出に投資しよう、なぜなら、人生は経験の合計であり、その経験から生まれる思い出こそが人生を有意義で豊かにするからというメッセージ。

体力、好奇心、時間に限界が見えてきた高齢者にとっても、今からでも遅くはない、何かに挑戦して楽しい思い出をつくろうと、ポジティブな気持ちを奮い立たせてくれます。確かに、やりたいことには賞味期限があります。60を超えて夏や冬の過酷な環境でのアウトドアを楽しむほどの体力は、もはやないかもしれません。その一方で、さまざまな芸術、思想、出会い、グルメにじっくりと落ち着いて触れられるのは、高齢者ならではの特権ではないでしょうか。

本書の主な対象は、公私ともにはつらつと活躍し、現代社会を牽引する現役世代といえます。寿命は誰にもわかりません。最長でどのくらい生きるかを想定すればよいということなので、平均寿命プラス10歳(90歳)が妥当なところでしょうか。余命から逆算して毎年いくら使えば残高がゼロになるかを、著者の「魔法の計算式」を参考に年金など日本の実情を考慮して計算してみました。

これから生活費として必要なお金

魔法の計算式:
死ぬまでに(今後生活費として)必要なお金 = (1年間の生活費) × (人生の残り年数) × 0.7

米国ではソーシャルセキュリティ(年金制度)が充実していないので自助努力で補われています。上記の式の係数0.7は、保有する資産をすべて銀行に預け、物価上昇率を超える年利3%以上で運用することを前提としています。しかし、死ぬまでに必要な金額をすべて銀行に40代から預け続ける必要はないため、ここでは係数0.7を除いて計算することにします。ネット上で公表されている統計値を参考に、45歳会社員と45歳専業主婦からなる世帯をモデルとすると、40代の月平均生活費は28.7万円(総務省統計局)、夫が90歳になるまでに必要な金額は、

28.7万円 × 12か月 × (90 - 45)年 = 15,498万円(約1億5,500万円)……(A)

ただし、この金額には今後の収入(給与および退職後の年金)が考慮されていません。定年まで勤め上げると、

  • 45〜65歳の給与収入:昇給なしの場合、369万円(平均所得)× 20年 = 7,380万円……(B)
  • 65〜90歳の年金収入:年額272.4万円(年金受給額平均:東京海上日動)× 25年 = 6,810万円……(C)

{将来の収入(B)+(C)}-{死ぬまでに必要なお金(A)}= 7,380 + 6,810 - 15,498 = △1,308万円

約1,300万円不足となります。平均所得では貯蓄は難しいことになりますが、昇給や資産運用、相続などで大きく変わりうるので、トントンになることもありますし、十分足りることもあるでしょう。この条件ではマンションや一戸建てを購入することは厳しいと思います。

高齢者の場合
次に、高齢者のケースで試算します。夫(元会社員・67歳)と専業主婦の妻の世帯を想定しました。夫婦ともに健在、夫が90歳までとし、月平均の生活費を28.3万円(65歳以上夫婦のみ世帯の生活費:明治安田生命)と仮定すると、

今後生活費として必要なお金の総額:28.3万円 × 12か月 × (90 - 67)年 = 7,810.8万円

今後受け取る年金を月額22.7万円(年額272.4万円)とすると、90歳までの23年間の受給総額は6,265.2万円。あるいは、税金や社会保険料が差し引かれるため、手取りを月額20万円(年額240万円)とすると、受給総額は5,520万円です。
6,265万円 - 7,810万円 = △1,545万円・・・1年ごとに67万円不足
5,520万円 - 7,810万円 = △2,290万円・・・1年ごとに99万円不足
高齢者の場合、これまでの預貯金、投資信託など未知数が隠れています。これら未知数の資産から1,500〜2,200万円を除いた金額を残らず使えば残高ゼロが達成できます。

月平均の生活費28.3万円は70代になればさらに少なくなります。70歳以上の月平均生活費の下限22万円で計算すると、
22万円 × 12か月 × (90 - 67)年 = 6,072万円 が今後生活費として必要なお金の総額なので、
年金の受給総額から引くと、
年金受給月額 22.7万円では、6,265万円 ー 6,072万円 = 193万円・・・1年ごとに16万円余り
年金受給月額 20万円では、 5,520万円 ー 6,072万円 = △552万円・・・1年ごとに46万円不足
生活費を22万円に落とせば、トントンか、あるいは、まだ少し不足するので、場合によっては貯蓄から取り崩す必要が生じます。いずれにしろ、残りの預貯金、投資信託などの未知数の金額をゼロにしてもよいことになります。

人生を豊かにするためには、年齢ごとに、預貯金などの資産がどの程度あるか、どう運用しているかを見極めたうえで判断しなければ、後々厳しい状況になりかねません。貯蓄がない場合、年金だけで暮らすにはかなり厳しい生活を強いられることになります。NISAを活用したインデックスファンドなど低リスクな資産運用は若い世代には必要であり、いわゆる「金融リテラシー」を高め、余裕資金を確保しておくことが求められる時代になったといえるでしょう。

その一方で、お金だけで人生が変わるものでもありません。年齢を問わず大切なのは、バランス感覚、すなわち中庸のスタンスではないでしょうか。家族や友人との思い出のためなら、お金を惜しみたくありませんが、きちんと算段するのが前提になります。もちろん、人生に正解などなく、うまくいくときもあればそうでないときもあるので、今、大切だと思える経験を優先することは大事なことと思います。紆余曲折を経て、大概はなんとかなるのかもしれませんが、高齢という条件が加われば、思いもかけず幕が下りることも考えておかなければなりません。「死ぬときに残高ゼロ」を考えることができるのは一部の方に限られるのかもしれません。

まとめ
現在、65歳以上の夫婦二人暮らし無職世帯では公的年金の受給額が23万円、毎月3〜6万円を貯蓄から取り崩しているとの報告をみると(MUFGより)、多くの高齢者にはそれほど余裕がないと思われます。本書の趣旨は「死ぬときに資産を残しすぎるな。人生の各ステージで経験にお金を使え」。そして、このルール8では老後を待たずにお金を使い始めようと勧めてくれます。これを実現するには、若いうちにどの程度の実績を残せるか、お金を稼げるか、これらの課題を克服することが条件になります。これまでの貯蓄額と運用法次第で、人生を豊かにするための資金はおおよそ決まりますから、現役世代は資産をどう成長させ、どう使うか、若いうちからよく考える必要があります。高齢者にとってはどうしても少欲知足と相容れないところが気になりそうですが、たしかに資産をどうするかは早め早めに対応した方がよさそうですね。

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