「自分はどこから来たのか」、若いうちはたいして気にしていませんでしたが、高齢になると蘊蓄を垂れたくなるお題ではないでしょうか。いろいろなところで老後の趣味にされている方の記事を拝見します。子や孫へ伝える家族史、子供に聞かれたら嘘をつくわけにもいかないし、なにも語れないのも困ると思い調べてみました。実は、身近なものの中に驚くほど豊富な手がかりが眠っているんですね。
その1 基本知識
まず必要なのはとにかく戸籍。昔は本籍地の役所に請求しなければなりませんでしたが、今は一つの役所から取得できます。明治初期まで直系の先祖の戸籍を順次遡ることができ、先祖の生没年・続柄・居住地を知ることができます。
さっそく、戸籍を見てみると、4〜5代前までであれば簡単にわかりました。3代前の曾祖父(ひいじいちゃん)は源十郎さん、安政6年(1859) 生まれ、、4代前の高祖父(ひいひいじいちゃん)は友一郞さん、天保4(1833) 年生まれ。1833年といえば、天保の大飢饉が始まった年。歴史で習ったよう気がします。東北地方を中心とした冷害、洪水による凶作のため、各地で打ちこわしが頻発して社会情勢が悪化し始めたと記録に残っているので、御先祖様もかなり御苦労されたことと思われます。歴史上の人物としては、明治維新の三傑の一人、木戸孝允(桂小五郎)が生まれた年。ひいひいひいじいちゃんの又三郎さんの生年月日は残念ですが、わかりませんでした。
国立国会図書館デジタルコレクションでは、明治・大正期の「商工人名録」「篤農家名鑑」「職員録」などが無料で閲覧でき、先祖の職業・社会的地位が確認できます。利用者登録で、簡易登録を選ぶとすぐに利用できるようになります。戸籍で確認できた御先祖様の氏名を検索すると、資料の一覧が現れ、各史料のページの部分をクリックすると、該当者にマークされたページになります。ただし、ウェブで閲覧不可の史料は国会図書館に申請することになります。
その2 家紋
苗字は御先祖の職業・出身地・氏族を示すことがあるそうです。日本の苗字の大半は地名に由来し、「川島」なら川のほとりの島状の地に住んだ一族、「杉山」なら杉の木が茂る山の近くに住んだ家、というように地形や自然と結びついています。
苗字と家紋を組み合わせると、氏族の絞り込みが格段に進みます。都道府県別の「姓氏家紋大事典」や、各都道府県の郷土史研究会が発行する史料には、地域ごとの武家・庄屋の苗字一覧が掲載されており、自分の苗字がどの氏族の流れをくむか調べることができます。地名との照合も有効で、御先祖の居住地と同じ苗字の地名が近隣にあれば、そこが氏族の発祥の地である可能性が高いそうです。
都道府県立文書館には、江戸時代の「宗門人別改帳」「名主役引継文書」「旧高旧領取調帳」などが保存されています。宗門人別改帳は現代でいう住民票に相当し、家族構成・宗旨・檀那寺が記録されており、苗字が持てなかった一般農民でも追跡が可能です。
その3 「家の中」の手がかり
菩提寺の過去帳には、戸籍よりさらに古い記録が残されています。江戸時代の先祖まで遡れることもあるので、住職に相談してみるとよいでしょう。曹洞宗・真言宗・浄土宗の寺院は墓石を建てる文化があり、古い墓石から戒名・没年を知ることができます。実はうちの父のお墓は宗教不問の公園墓地なので、菩提寺の住職とのお付き合いが続いているのか、これから調べなければなりません。
家に関する資料を見直してみると、ありがたいことに、御先祖様の戒名の記録が残っていました。戒名には、先祖の身分・時代・信仰が凝縮されていて、戒名の四つの要素「院号」「道号」「戒名」「位号」、それぞれが先祖の人生をうかがうことができます。
位号の「居士」は、江戸時代には上級武士や庄屋クラス以上にしか許されなかった格式で、その家が地域の有力者であった証。「院号」(○○院)がつけば、寺院や社会に顕著な貢献をした人物。また、複数の先祖の戒名に同じ漢字が繰り返されている場合、それは「通字(とおりじ)」と呼ばれる一族の精神的な柱であり、何代にもわたって住職が意図的に授け続けてきたと考えてよいそうです。御先祖様の戒名を時代順に並べてみると、一族が歩んできた軌跡と信仰の深さが浮かび上がる、こうしたことは思いもよらず、不思議な感覚を覚えますが、これも代々、引き継がれるべきことだったのかもしれません。
墓石の文字、古い写真、家紋の入った着物や提灯なども貴重な資料。家紋は氏族の歴史を凝縮した記号であり、「丸に剣片喰」なら武家系、「三つ巴」なら神社や武将ゆかりの家系を示すなど、出自の推定に直結します。親族への聞き取りも大事。「昔は庄屋だった」「武家の出だ」という口伝(いいつたえ)は、しばしば史料に出会えるヒントになるようです。
その4 歴史の文脈で先祖を位置づける
個々の記録が集まったら、御先祖が生きた時代の歴史と照らし合わせます。たとえば江戸末期に苗字を持っていたなら、その人物は一般農民ではなく苗字帯刀を許された名主・庄屋クラスであった可能性が高い。明治生まれの先祖が昭和初期に官公庁の要職にあったなら、明治の文明開化の中で高い教育を受けて立身出世した人物像が浮かび上がります。
まとめ
先祖調査は、近いところから遠いところへ、具体から抽象へと進めるのが鉄則。
家系図をつくるなら、無料のスマホアプリを利用するのが簡単かと思います。
- 戸籍請求——明治初期まで遡る
- 国立国会図書館デジタルコレクション——新たな事実がわかれば、そのつど検索
- 苗字と家紋の照合——氏族を絞り込む
- 位牌・墓石・家紋・古写真——家の中の手がかりは史料を探すヒント
- 文書館・菩提寺——江戸時代まで遡る
手がかりは必ずどこかに残っている、一つの発見が次の発見を呼び、やがてパズルのピースが揃うように先祖の姿が浮かび上がってくる。あたかも探偵小説のようです。なぞ解きの瞬間の感動は、調査を続けてきた者だけが味わえる、かけがえのない体験。ルーツを探る旅を計画するだけでも御先祖様と一緒に愉しめる気がします。
